Hep-Fiveの赤い観覧車

先日(2020年10月23日)の夕方、大阪梅田の中心地にあるHEP-FIVE(ヘップファイブ)という商業施設にて高校生の飛び降り事故があり、 たまたま下を歩いていた女子大生が巻き添えに遭い翌日に亡くなりました。

この事件は一体なぜ発生したのでしょうか?

そして高校生が飛び降りることをなぜ防ぐ事ができなかったのでしょうか?

またこのような事故を防ぐにはどうしたらよいのでしょうか?

本日はこれらの問題についてビル管理の観点からお話ししてみたいと思います。

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HEP-FIVの転落事故はなぜ発生したのか?

ご遺族の皆様をはじめ、関係者の方々も大変心を痛めていらっしゃることと思います。

改めて、亡くなられた方のご冥福をお祈りいたします。

また現場の警備員さんをはじめビル関係者の方のご尽力に心から感謝いたします。

様々な問題が複雑に絡み合っていますから、ビル管理の観点で全てを解決出来るわけではありません。

そのことを承知の上で、あえてビル管理に的を絞って考えてみます。

遺書も残されていないのでこの高校生が本当に自分の意志で飛び降りたのかは不明です。

状況からみて自ら飛び降りた可能性が高いということです。

もしかしたら事故なのかも知れません。

これからお話しするのは、事件か事故かの検証ではなくて、「なぜ高校生は屋上に出ることが出来たのか?」についてです。

一般人がなぜ従業員専用エリアに入れたのか?

そもそも部外者である高校生がなぜ従業員専用フロアに入れたのでしょうか?

この件を知人のビル管理人(HEPのビル管理人ではありません)に尋ねてみたところ次のような回答がありました。

商業ビルの従業員専用フロアというのは一応部外者の立ち入りが禁止されている。

しかし一般人が入ろうと思えば簡単に入れる構造のところがほとんどである。

たとえば百貨店やスーパーの売り場。

お客様のいるところと関係者専用のエリアの間は両開きの簡単な扉があるだけで、特に鍵はかかってない。

一般の人がそこに入っていかないのは『ここは部外者立ち入り禁止エリアだから私達は入っちゃいけない!』という意識が働いているからだ。



つまり従業員専用エリアに一般の人が入っていかないのは、お客様の意識に依存しているということです。

もしもお客様がそのエリアに入りたいと思えば自由に入ることが出来るのです。

実はほとんど全ての建物において、一般人の入ることの出来ないエリアにも私たちは自由に出入りすることが出来るのです。

なぜ高校生はHEPの屋上に出ることが出来たのか?

次になぜその高校生は屋上に出ることができたのでしょうか?

万が一従業員専用エリアに入ることができたとしても、屋上へ通じる扉に鍵がかかっていれば、高校生が屋上へ出ることはできなかったはずです。

ニュースによれば高校生は10階の扉の内鍵にあったプラスチック製カバーを壊して解錠し、屋上に出たということです。

そして扉を開けるとブザーが鳴り、警備員が駆け付けた時にはすでに高校生の姿はなかったと言います。

このプラスチック製のカバーとは一体何でしょうか?

もしもこの扉にプラスチックカバーが付いていなければ、外に出ることは出来なかったはずです。

その結果、高校生が屋上に出ることはなかったのではないでしょうか?

この疑問も先ほどの知人に聞いてみました。

あのプラスチック製のカバーは非常の際に外に出ることのできる緊急用の装置である。

どんなビルでも全てそのような装置がついている。

2方向避難が消防法で義務付けられているからだ。

それは、万が一の時に命を守るため。

例えば火災が起こった時、通常の火災であれば人は下の方に避難して行く。

火や煙は上の階に上がっていくから。

しかし下の階に逃げようとした時に、既に階段が火の海に包まれていることがある。

その時には上の方に避難する。

そして最上階である屋上の扉に付いているプラスチックカバーを破壊して鍵を開け外に出る。

するとヘリコプターやはしご車で救援に来た消防隊に救助してもらえる。

もしも屋上にある扉がカギでなければ開かないようになっていたら、ここまで逃げてきた人が煙に巻かれて死んでしまう。

だからビルの屋上や外部階段に通じる扉には通常鍵をかけていても、緊急時には内側から誰でも開けることの出来る装置が取り付けられている。



なるほど、プラスチックのカバーは火災の時に人を屋上に避難させるための緊急用の装置なんですね。

もしも屋上の扉が鍵でなければ開かないようになっていたら、今回の事故は防げたのかも知れません。

しかし、同時にそのビルは火災の時に避難できない建物と言うことになってしまいます。

なかなか難しいものですね。

なぜ警備員は間に合わなかったのか?

続いて、『ブザーが鳴って警備員が屋上に駆けつけるのに何分かかったのか?』ということですが、ニュースなどを見ても警備員の到着までに具体的に何分かかったかは報道されていません。

通常防災センターや警備員の詰所はビルの1階や地下にあります。

防災センターにブザーが鳴る方式として、ブザーに反応してすぐにそのエレベーターに乗れたと仮定しても屋上に到着するまでに1~2分はかかります。

万引きなどの事件発生時に警備員が現場に駆け付けるまでの時間は通常5分~10分と言われています。

なのでHEPの警備員さんが怠慢で現場急行を怠ったとも考えにくいです。

これらを総合して考えると、今回の事故は設備的な不備でも警備員の怠慢でもなく、通常のビル管理の範囲内で発生したものと言えます。

高校生の事故を防ぐために我々が出来ることとは?

では今回のような事故を2度と起こさないようにするために、私たちは一体何が出来るのでしようか?

・屋上に警備員を配置する?

・屋上の扉に鍵を付ける?

・従業員専用フロアへの一般人の進入を防ぐ?

これらはいずれもビルの管理者が行うことですね。

再び先ほどのビル管理人である知人の話です。

電気錠と言って電気の力でカギを掛けることも出来る。

パニックオープン機能と言って、火災などの非常時には自動で、または防災センターからの遠隔操作で屋上のカギを開けるシステムだ。

ところがこのような設備を設置するには費用がかさむ。

ビルの規模が大きくなればなるほど屋上につながる扉の数も増えてしまう。

おそらくHEPくらいの規模になると、東西南北の最低4ヶ所は屋上から地上につながる非常用階段があると思われる。

それら全ての扉に警報装置を付けるとなると、1,000万円は下らないだろう。

するとビルの管理費が増大し、それはテナントの賃料に影響を及ぼす。

テナント賃料が高騰すると入居店舗が減り赤字につながる。

そのためどこのビルでも「安全は最大限確保しつつ費用は出来るだけ抑えたい!」というギリギリの選択をしている。

今の日本のビルのほとんどが屋上などの非常用扉はプラスチックカバー方式である。

法律を改正して『屋上への扉は必ず電気錠にすべし』としない限り、経営努力ではどうにもならないと思う。



なるほど、技術的には可能でも、費用の面で出来ないことってあるんですね!

これは一つの案ですが、『当該屋上の鍵を電気錠に変える!』と言うのはいかがでしょうか?

屋上に出る全ての扉に電気錠を設置するとなれば、費用が莫大になってしまいますが、1ヶ所だけならば何とかならないでしょうか!

ビル関係者の皆様、検討のほどよろしくお願いします。

またこのようなケースで裁判を起こして管理の不備を責める方法もありますが、今回の場合は設備や警備員さんに重大なミスがあるわけではなさそうなので、ビルの管理責任を問うのは難しいでしょう。

部外者の我々に出来ることとは?

当事者ではない私たちには一体何が出来るのでしょうか?

私たちにも出来ることが実はあるのです。

それは『不便を当然のこととして受け入れること』です。

不便を当然のこととして受け入れる!



今回の事故を受けて、全国の商業施設で屋上等への出入りの制限されるでしょう。

さらにはスタッフ専用エリアにおける警備員の警戒を強化するでしょう。

するとそれまで普通に出入りしていた所が急に『立ち入り禁止区域』に指定されるかも知れません。

そのような『不便さ』が出てきた時にそれを当然のこととして受け入れるのです。

もしかしたら従業員専用エリアに入り込んだだけで警察に通報されるかも知れません。

警察に通報されたら職務質問、取り調べ等を受けることになります。

そう言った『不便さ』を『当然のこと』として受け入れるのです。

少なくとも『仕方ないかな!』と言う感覚です。

これが、我々部外者に出来ることです。

まとめ

本日は大阪梅田の商業施設HEP-FIVEで発生した高校生転落事故について、ビル管理の観点から私たちに出来ることは何かについてお話ししました。

ポイントは次の二点でしたね。

・屋上扉のプラスチックカバーは火災の時に屋上に避難するための非常用装置である!

・部外者に出来ることは不便さを当然のこととして受け入れることである!



改めて、亡くなられた方のご冥福をお祈りすると共に、ご遺族の皆様の心が一刻も早く癒されますことをお祈りしています。

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